カルロス・カイザー 決してサッカーをしない伝説のサッカー選手

カルロス・カイザー 決してサッカーをしない伝説のサッカー選手スポーツ

カルロス・カイザー(Carlos Kaiser)ことカルロス・エンヒキ・ラポーゾ(1963年7月2日– )は、ブラジルのポルト・アレグレ出身の元サッカー選手。現役時代のポジションはフォワード。愛称のカイザーは小さい頃にフランツ・ベッケンバウアーに似ていたことから、ベッケンバウアーの愛称「カイザー(皇帝)」に由来している

皆さんは、カルロス・カイザーという選手をご存知でしょうか?実はこの選手、かなりの異色の経歴の持ち主で、その「かなり」というのは、前例が無く、また現代でカイザーのようなキャリアを歩むのはほぼ不可能と言えます。実はこのカイザー、ほぼプレーをせず約20年間過ごしたという「異色の経歴の持ち主」なのです。いったいどんなプロサッカー人生だったのか、本記事で触れていきたいと思います。

カルロス・カイザーの生い立ち

幼少期からサッカーを叩き込まれた

彼が生まれたのは、サッカー王国・ブラジル。その南部に位置するポルト・アレグレという都市です。1963年7月に生まれ、現在も存命中の人物です。もともと家は貧しく、カイザー自身は養子に出され、養父母からリオデジャネイロで育てられました。彼がサッカーを始めたのは1973年。10歳の時に、ボタフォゴFRの下部組織に入団します。ボタフォゴFRは、強豪ひしめき合うリオデジャネイロの選手権で、20回もの優勝経験があるクラブです。ポジションはFW。プロ生活時もこのポジションを貫くことになります。

ボタフォゴFRのエンブレム

ブラジルでは、”家が貧しくて家族を楽させたい”という理由でサッカーを始める選手が多いのですが、カイザーの家もそのようなものでした。しかし、家族がサッカーを強いることに嫌気がさし、カイザーは次第にサッカーが嫌いになっていきます。とはいえ、この後あのフラメンゴのユースに移籍するのですから、実力は十分にありました。

16歳でプロ契約へ

プエブラでの2年間で一度もプレーせず

様々なユースチームを渡ったカイザーですが、1979年にいよいよプロ契約をすることになります。
最初にプロ契約を結んだのは、メキシコのプエブラFC。このクラブ、メキシコリーグで2度優勝したのがどちらも1980年代ですから、まさに全盛期へと上り詰める半ばでの入団。しかし、このクラブでカイザーがプレーすることはありませんでした。なぜなら常に練習中に負傷を訴えていたからです。カイザーはこうして、これからの20年間で欠場のために色んな手法を使うことになります。

試合に出ないための様々な嘘

流石に、一つの嘘だけでは見破られてしまうので、カイザーはいくつもの嘘を用意します。
それが次のようなものです。

当時はスカウトの方法も甘かった

①契約は必ず短期間
様々なクラブを渡り歩く過程で、カイザーは色んな有名選手と会うことになります。そうした選手たちのコネクトを使い、自分を推薦してもらいます。そして、クラブには1年以内の短期間契約を結び、入団以降の数ヶ月は、調整期間が必要だと主張して、嘘のカードを切る期間をギリギリまで縮めました。そして、調整期間が過ぎた以降は、適当なケガで誤魔化して、そのまま退団したのです。

治りが遅すぎるので怪しまれたことも

②ケガのパターンを増やす
ケガのパターンも増やしました。一つの方法ではまずいですからね。歯の痛みや腰、筋肉など、ケガに見せかけた部分はたくさんありますが、面白いのはチームメイトに演技をさせていたこと。チームメイトに金を払って、自分がケガを食らったシーンを作って欲しいと頼むのです。これで、ケガの信憑性を高める狙いがあったのでしょう。いくら金をもらっているとはいえ、チームメイトはこんな奴を放ってほいて良いのでしょうか?

実際に大きく現地紙で取り上げられた

③デマを流す
インターネットが無かった時代。マスメディアを通じてデマを流し、大衆にその情報を信じ込ませることも簡単でした。裏付けが得にくいですからね。そのためカイザーは、スポーツ記者やメディア関係者との関係を持ち、金を渡して、自分に関する虚偽のニュースを書かせました。都合のいいニュースばかりで、カイザーが前のクラブで活躍していたかのような見出しを付けた記事もたくさん流れました。

失敗した策略

カストルはマフィアのボスですw

たくさんのクラブを渡り歩いてきた中で、もちろん失敗した策略も存在します。有名なエピソードではバングーACに在籍していた時のこと。この時、残念なことに(?)カイザーがベンチ入りした試合がありました。当時のクラブオーナー、カストルがカイザーのことを気に入っていたからです。カイザーは、コーチとの間で試合には出ないことを約束していたものの、オーナーはそれを無視し出場を強行。試合出場の危機に見舞われますが、交代中にオーナーであるカストルを侮辱した観客がいたことを口実にカイザーはスタンドに暴言を吐き退場処分。さらにオーナーはカイザーのこの行為に感動し、給料2倍という条件で契約を6ヶ月延長してしまいます。咄嗟のトークセンスには目を見張るものがあります。

経歴詐称を暴露とその後

現在のカルロス・カイザー氏

その後もカルロスはクラブを次々と変え続け、1990年代初頭に現役を41歳で引退。引退後はリオデジャネイロでトレーナーになりますが、2011年に経歴詐称をカミングアウトします。その後、多くのテレビ局からインタビューを受け「策略を恥ずかしく思わなかったのか?」と問われますが、カイザーは「何も後悔していない。クラブはすでにとても多くの選手を欺いている。誰かが復讐者にならなければならなかった。」と発言。一方で自分を応援してくれたサポーター、チームメイトたちに対しては「罪の意識がある」と発言しています。

映画「カイザー!」のポスター

また皮肉にもこのカミングアウト以後カイザーの知名度はさらに上昇し、2015年にはカイザーを題材にした映画「Kaiser: The Greatest Footballer Never to Play Football」が公開されました。カルロス・カイザーの嘘は決して良いことではありませんが、時には嘘をついて自分の身を守る、自分の利益を得る決断も必要なのかもしれません。この記事を読んで、彼の人生についてもっと知りたくなった方は是非映画の方をチェックしてみてくださいね。

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